ああ今は何も言わずに
黙って君を送ってゆくよ
静かな気持ちでいられるのは
降り始めた雨のせい
今ま何も見えない一縷の光りさえまだ暗闇の中だけど
気付きはじめた
あの日々と引きかえになるものなど
なにもなかった


〜君へのloveSong〜



2002年5月1日。メーデーのお祝に沸く北京の街。坂東弘美とまのあけみは中央電視台の大スタジオのマイクの前に並んで立っていた。「実話実説」という、一回の放送だけで、中国全土の六千万人が見るという人気討論番組のラストを、まのの父の17回忌に寄せて作られた朗読入りの歌、「百日紅」で締めくくるためだった。司会は崔永元。今中国国で最も人気のある司会者と共に、中国、韓国、日本の学生や一般市民、学者など、百人以上の番組参加者が見つめている。
 坂東はまのあけみの絶唱に鳥肌がたった。正義を振りかざすわけでもない。坂東はひたすら素朴に、中国の人々にまのあけみの「百日紅」を聴いて欲しいと訴え続けてきただけなのだ。夢は実現した。
 来る6月1日。まのあけみ歌生活30周年記念リサイタルが、名古屋アートピアホールで開かれる。二人は一ヶ月前と同じように舞台に立ち、素朴に「百日紅」を歌う予定である。国交回復30周年の年に。
「暮らすメイト」31号より

元中国国際放送局アナウンサーの
フリーランスアナウンサー(名古屋在住)

坂東 弘美

まのあけみは台所感覚、女の感性だけを歌いあげてきたシンガーソングライターだったのだろうか?私という一人の人間との個人的友情の中だけでも、彼女はチェル ノブイリの救援活動に、アメリカの銃規制の為に、中国の大地で中国の子供達の前で戦争時代のことを自分の父親の思い出を通して語り、歌った。私が「こんなことを考えているの」というと、いつもイの一番に歌をひっさげて駆け付けてくれたのは彼女だった。多分におっちょこちょいという側面もあろうが…が、彼女の歌わずにはいられないという気持ちは、やっぱり歌を聞いた人の心の動きのシステムを大なり小なり変えていったのではないだろうか?私はそう思う。 家の中を歌うことは実は宇宙の歴史や未来を歌っているのかもしれないし、世界を歌うことは、他ならぬ自分の小さな精神世界を歌っていることなのかもしれない。いずれにしろ、まのあけみは、悩み、苦しみ、喜び、悲しみ、怒り、傷つき、傷つけ、間違えながら、企むということを知らずに歌いたいから歌っているに違いないと思うのだ。彼女の『歌』を友達だと思っている多くの人の心の世界に、これからも何かしらの息吹きを与えながら、彼女は21世紀の扉をあいも変わらず歌で開いて行くのだと思 う。

沖縄大学地域研究所特別研究員 板東弘美


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